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福岡地方裁判所 昭和42年(ワ)1075号 判決 1969年7月11日

原告 全岩田屋労働組合

右代表者執行委員長 三重野正明

右訴訟代理人弁護士 諫山博

右同 木梨芳繁

被告 井手哲朗

右訴訟代理人弁護士 野上武彦

主文

被告は原告に対し金三六万八、六六〇円およびこれに対する昭和四二年九月二二日より完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを五分しその一を原告その余を被告の各負担とする。

この判決は原告において金一五万円の担保を供するときは第一項に限り仮に執行することが出来る。

事実

≪省略≫

理由

一、原告全岩田屋労働組合が株式会社岩田屋に勤務している本職員で構成している法人たる労働組合であること、被告は昭和二九年三月二一日同会社に入社し同年六月二一日原告に加入し昭和三三年一〇月当時その副執行委員長であったが、同会社が昭和三三年一〇月四日付で同年八月二日より七日にわたって全岩労の行ったストライキを理由に被告を含む全岩労執行部八名を懲戒解雇処分にしたこと、被告が同組合を脱退したこと、昭和三九年九月前記懲戒解雇処分に対する地位保全仮処分申請控訴事件が勝訴したこと、被告が犠牲者救援資金として全百連ならびに原告組合から毎月金員(金額については争がある)を受領したことは当事者間に争いがない。

二、≪証拠省略≫によれば、被告が原告の加盟している全百連から原告を脱退した場合は直ちに全額返還するとの約束のもとに原告主張通り総額一一万七、四八〇円の借金をした事実が認められる。

≪証拠省略≫によれば被告は組合より昭和四一年一〇月定期大会で昭和四一年六月三〇日付をもって、「除名」され被告自身が同年七月一日付をもって全岩労を脱退する旨の通知を原告に為した事実が認められる。かような場合が右中央執行委員会の決定した条件の「脱退」に入るかどうか問題であるが特に限定する文言のない限り右貸付の趣旨から考えて除名の場合も含まれると解釈せざるを得ない。被告本人の供述中組合大会において右に脱退とは第二組合に走った場合に限る旨決議されているとの部分は右三重野の証言に照らして採用しない。同≪証拠省略≫によって認められる「救済資金の貸付を受けていた訴外平田が一身上の都合で会社を退職して原告組合を脱退する際に右救援資金の返済をしている」事実も右解釈を裏付けるものである。

同≪証拠省略≫によれば被告は昭和三四年中三万八、九四〇円の弁済をなし被告が全百連から借り受けた残金額は七万八、五四〇円となり原告は右債権を昭和三七年一〇月全百連からその定期大会決定により全岩労の資金カンパとして一五〇万円の現金と、右債権の譲渡を受け、被告はその大会の報告者として出席していた事実が認められる。又このことから被告は右債権譲渡について承諾をなしたものと推認できる。

三、≪証拠省略≫によれば原告はその定期大会の決議にもとづいて原告を脱退した時は直ちに全額返還するとの約束のもとに、被告に対し昭和三四年一〇月分として九、七九〇円を同月二五日に貸付け以来毎月昭和三九年九月分まで七二ヶ月分合計金六二万六、八〇〇円と臨時救援手当合計一二万九、一一四円を貸付け結局総合計金七五万五、九一四円を被告に貸付けた事実が認められる。

四、被告が原告に対し原告が全百連より譲受けた債権七万八、五四〇円と原告貸付金七五万五、九一四円の合計金八三万四、四五四円の中、四六万五、七七四円を昭和三九年一一月一四日に弁済をなしたことは原告の自陳するところであるからその残額は三六万八、六六〇円となる。

五、≪証拠省略≫によれば、被告は昭和三六年九月福岡地区労に出向した際組合定期大会の決議により福岡地区労から受ける給料のうち昭和三九年九月まではその50%、昭和三九年一〇月以降は80%を組合の闘争資金として組合に納入すべしとの組合大会の決議を承諾し、計九五万八、二九四円を納入したが納入未済額が計三万五、六五六円あることが認められる。右納入未履行の部分は書面によらざる贈与契約と解せられるので被告がこれが支払を拒否する以上その支払を請求することはできない。しかし他面既に履行された部分についてはこれが返還を請求することもできない性質のものであるから被告主張の抗弁も理由ないことになる。

六、よって原告の本訴請求中三六万八、六六〇円とこれに対する訴状送達の翌日であること記録に徴し明らかな昭和四二年九月二二日以降完済迄年五分の割合の遅延損害金の支払を求める部分は理由のあるものであるからこれを認容すべきであるが、その余は棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条九二条を、仮執行宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 安東勝)

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